腹膜透析ってどんな治療? ~ご自宅でできるもう一つの選択肢~
週に3回、1回4時間もの時間をベッドの上で過ごし、太い針を刺す痛みに耐え、透析の後は疲れ果ててしまう…。そんな日々の中で、「もう少し自分の時間が欲しいな」「もっと楽な透析はないのかな」と、『腹膜透析』という治療法に興味を持たれる方もいるかもしれません。
現在血液透析を受けられている患者さんに向けて、「腹膜透析(PD)とはどのような治療か」「血液透析から途中で変更することはできるのか」について、最近の医療知識を交えながら優しくお話しします。
そもそも「腹膜透析(PD)」ってどんな治療?
現在皆さんが受けられている「血液透析」は、腕の血管から血液を体の外に取り出し、機械のフィルターを通してキレイにしてから体に戻す方法です。
一方、「腹膜透析」は、ご自身の「お腹の中にある膜(腹膜)」をフィルターの代わりにして、血液をキレイにする方法です。
お腹の中(胃や腸の外側)には、臓器を包んでいる「腹膜」というラップのような薄い膜があります。このお腹の空間に、専用の「透析液」というお水を注入します。すると、腹膜の細い血管を通して、体の中に溜まった老廃物や余分な水分が、時間をかけて透析液の方へジワジワと染み出してきます。数時間後に、そのお水を体の外へ出すことで、血液がキレイになるという仕組みです。
血液透析とどう違うの? 最大のメリットは「生活の自由」
腹膜透析の最大の特徴は、「ご自宅で、ご自身のペースで行う治療(おうち透析)」であるということです。今の血液透析との違いを分かりやすく表にまとめました。
【表:血液透析と腹膜透析の違い】
| 血液透析(HD) | 腹膜透析(PD) | |
| 場所 | クリニックに通院 | ご自宅(旅行先などでも可能) |
| 通院ペース | 週に3回(月13回程度) | 月に1〜2回(お薬の処方や検査のみ) |
| 治療の負担 | 短時間で水分を引くため、血圧が下がったり疲れやすい | 毎日ゆっくり行うため、血圧が安定し、心臓にとても優しい |
| 食事・水分 | カリウムや水分の制限が厳しめ | 毎日老廃物を出すため、制限が比較的ゆるやか(※個人差があります) |
| 針を刺す痛み | 毎回、太い針を刺す痛みがある | お腹の管(カテーテル)をつなぐだけなので、針を刺す痛みはない |
血液透析から、腹膜透析に「変更」できるの?
「もう血液透析を始めているけれど、今からでも腹膜透析に変えられるの?」と疑問に思われるかもしれませんね。
結論から申し上げますと、血液透析から腹膜透析への変更は「可能」です。
実際に、「透析のたびに血圧が下がって苦しい」「心臓の働きが弱ってきて、血液透析に体が耐えられない」といった理由から、体への負担が少ない腹膜透析へ切り替える患者さんもいらっしゃいます。
ただし、誰でも必ず変更できるわけではありません。腹膜透析を始めるためには、以下の点を確認する必要があります。
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お腹の手術(カテーテルを入れる手術)が必要です: 透析液を出し入れするための、柔らかい短い管(カテーテル)をお腹に埋め込むための手術(数日〜2週間程度の入院)が必要になります。
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過去のお腹の手術歴: 過去に胃や腸の大きな手術をしていて、お腹の中で臓器がくっついている(癒着している)場合は、透析液がうまく回らず、できないことがあります。
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残っているおしっこの量(残腎機能): 腹膜透析は血液透析に比べると老廃物を抜く力が少し弱いため、ご自身のおしっこがまだ少しでも出ている方のほうが、よりスムーズに治療を行えます。しかし、おしっこが出なくなっていても週1回だけ血液透析を続けることで、腹膜透析を始めることも出来ます(併用療法)。
「高齢だから、自分でできるか不安…」という方へ
「自宅で自分でやるなんて、難しそう」「高齢で目も悪くなってきたし、手先も不器用だから無理よね…」と心配される方も多いです。
しかし、ご安心ください。最近では「寝ている間に、機械が自動で透析液の交換をしてくれる方法(APD)」があります。寝る前に管を機械につなぐだけで、朝起きる頃には透析が終わっているため、日中は透析を忘れて自由に過ごすことができます。
また、ご自身での操作が不安な場合は、ご家族に手伝ってもらったり、「訪問看護ステーション」の看護師さんに自宅へ来てもらって手伝ってもらうこと(アシステッドPD)も可能です。
実際に、80代、90代の患者さんでも、ご家族や訪問看護師のサポートを受けながら、住み慣れたご自宅で穏やかに腹膜透析を続けられている方がたくさんいらっしゃいます。
さいごに…:あなたの「どう生きたいか」を一番大切に
治療法を選ぶということは、「これから、どんな生活を送りたいか」を選ぶことと同じです。
「週に3回の通院がなくなったら、お庭のお手入れをしたいな」「お孫さんと一緒にゆっくり旅行に行きたいな」……そんなご希望があるなら、腹膜透析は素晴らしい選択肢の一つになります。
もちろん、腹膜透析にも「お腹の管を清潔に保つ必要がある」「腹膜の寿命があるため、一生続けられるわけではない(一般的には数年〜長くて10年程度)」といった注意点があります。
「自分のお腹の状態でも腹膜透析に変えられるか」「訪問看護の手配はどうすればいいか」など、少しでも気になることがあれば、決して一人で悩まずに、次回の診察の際に「先生、腹膜透析について少し聞いてみたいです」とお気軽にお声がけください。
あなたの体と心、そして大切な毎日の生活にとって一番良い方法を、私たちが一緒に考え、全力でサポートさせていただきます。
