「将来、透析にはなりたくない」と不安なあなたへ
診察室で、患者さんからふと漏れる本音があります。
「先生、私、将来透析にだけはなりたくないんです…」
「知り合いが透析になって大変そうで。自分もああなるのかと思うと、夜も眠れなくて…」
その切実なお声を聞くたびに、ご自身の体を大切に思い、先のことを真剣に考えていらっしゃるのだなと、深く胸を打たれます。「透析」という言葉には、生活が大きく変わってしまうような、とても怖いイメージがありますよね。不安になるのは、決してあなただけではありません。
でも、腎臓内科医、透析専門医としてあなたに伝えたいことがあります。
「むやみに怖がる必要はありません。正しい知識を持ち、今からしっかりケアをすれば、長期間ご自身の腎臓で元気に過ごせる可能性は十分にあります」「万が一透析になっても、あなたらしく元気に過ごしていける方法もある」ということです。
今回は、「透析を遠ざけ、今の腎臓を守り抜く方法」について、お話しします。
そもそも「透析」って何をするの?
私たちの腰のあたりにある2つの「腎臓」は、血液の中のゴミをろ過してきれいなおしっこ(尿)を作る、体の中の「高性能な浄水器」です。
長年の病気などでこの浄水器のフィルターが壊れ、働きが健康な人の「10%未満」くらいまで落ちてしまうと、体中にゴミや水分が溜まり、命に関わってしまいます。
そうなった時に、腎臓の代わりに機械を使って、血液をきれいにする治療が「人工透析」です。
週に3回、1回5時間ほど病院のベッドで治療を受ける必要があるため、「自由な時間が減ってしまう」「食事が厳しくなる」と、多くの方が不安に感じられます。だからこそ、「浄水器(腎臓)が壊れ切る前に、何としても食い止める」ことが最大の目標になります。
なぜ腎臓は壊れてしまうの? 2つの大きな敵
透析が必要になる原因は、ある日突然、見知らぬ病気にかかるからではありません。その多くは、私たちがよく知っている「身近な病気」が長年続くことで起こります。
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糖尿病(糖尿病性腎臓病): 血液の中に糖分が多い(血糖値が高い)状態が続くと、血液がドロドロになり、腎臓の繊細なフィルターをボロボロに傷つけてしまいます。現在の透析原因の第1位です。
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高血圧(腎硬化症): 血管に常に強い圧力がかかることで、フィルターの毛細血管が硬くなり、破れたり詰まったりしてしまいます。
つまり、「血糖値」と「血圧」という2つの大きな敵から血管を守ることが、そのまま「透析を防ぐこと」に直結するのです。
【朗報】医療は進化しています! 腎臓を守る「新時代」
「もう腎臓が少し悪くなっているから、手遅れでは…」と諦めないでください。ここ数年で、腎臓病の治療は劇的な進化を遂げました。
昔は「悪くなるのをただ見守るしかない」と言われた時代もありましたが、今は違います。
「腎臓の働きが落ちるスピードにブレーキをかけ、透析を先延ばしにする素晴らしいお薬」が次々と登場しているのです。
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SGLT2阻害薬: 元々は糖尿病のお薬ですが、おしっこと一緒に糖を出すことで、腎臓の負担を減らし、フィルターを直接保護してくれる「特効薬」のような働きをすることがわかり、今では世界中で使われています。
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MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬): 腎臓の炎症や硬くなるのを防ぐ、新しいタイプのお薬です。
これらの「最新の武器」を適切なタイミングで使うことで、透析を回避できる未来が、今はしっかりと開かれています。
透析を遠ざける! 今日から始める「5つのお約束」
どんなに良いお薬があっても、毎日の生活の土台がぐらついていては効果が半減してしまいます。ご自身の腎臓を一生守り抜くために、以下の5つをぜひ実践してみてください。
① 「今の自分の点数」を知り、逃げない
腎臓は「沈黙の臓器」。痛くも痒くもないまま悪化します。「怖いから検査に行かない」が一番危険です。
血液検査の「クレアチニン」という数値から計算する「eGFR(腎臓の働きを示す100点満点の点数)」を定期的に確認し、今の自分の現在地をしっかり把握しましょう。
② 「血圧」の管理は最大の防御
ご家庭で血圧を毎日測り、「130/80 mmHg未満(できれば125/75未満)」を目標にしましょう。血圧が安定していることは、腎臓のフィルターへの負担が少ない証拠です。
③ 魔法の言葉「かけるより、つける」で美味しく減塩
塩分の摂りすぎは血圧を上げ、腎臓を痛めつけます。1日6g未満が目標です。
お刺身やお豆腐には、お醤油を上から「かける」のではなく、小皿に出して「ちょんっとつける」。これだけで塩分は半分になります。お酢やレモンの酸味、お出汁の旨味をフル活用しましょう。
④ お薬は「命綱」。絶対に自己判断でやめない
「今日は調子がいいから」「お薬の量が多くて嫌だから」と、血圧や血糖値のお薬を勝手にやめたり減らしたりしないでください。処方されているお薬は、あなたの腎臓を24時間体制で守ってくれている「命綱」であり「ボディーガード」です。
⑤ 脱水と「痛み止め」に注意
高齢になると喉の渇きを感じにくくなります。水分が足りないと血液がドロドロになり腎臓が傷みます。こまめにお水やお茶を飲みましょう。
また、腰やひざが痛いからと、市販の痛み止め(ロキソニンなど)を漫然と飲み続けるのは危険です。腎臓の血管を縮め、働きを急激に落とすことがあります。痛みが続く時は、必ず私たちにご相談ください。
さいごに:
「透析になりたくない」
その強い思いは、ご自身の命とこれからの人生を、とても大切にされている証拠です。
不安で夜も眠れない時は、いつでもうぐいす内科クリニックに来てください。
私たちは、単にお薬を出すだけの場所ではありません。あなたの不安な気持ちに寄り添い、最新の医療知識という強力な盾を持って、あなたの腎臓を一緒に守り抜く「チーム」です。
「私の腎臓の点数は、今何点くらい?」
「お食事のことで、もうすこし詳しく聞きたいな」
どんな些細なことでも構いません。一人で抱え込まず、私たちにすべてお話しください。
あなたが10年後、20年後も、ご自身の足で歩き、美味しいものを食べ、笑顔で毎日を楽しめるように。今日から私たちと一緒に、腎臓を守る新しい一歩を踏み出しましょう!
